秘訣5
株式移転は相続・贈与・売買のメリットを生かす

秘訣5
株式移転は相続・贈与・売買のメリットを生かす

株式移転の方法には次の3つがあります。

①相続による株式移転
②生前贈与による株式移転
③売買による株式移転

それぞれにメリットとデメリットがあります。どれを選んでも間違いではありませんが、支払う税金額が違ってきたり、経営者が望むとおりの承継がしにくくなったりする可能性はあります。自社の状況に合わせてより最適な1つを選び、そして最後まで実行してください。

①相続による株式移転

現経営者が亡くなった際に、自社株式を相続財産として後継者に承継する方法です。

株式を財産評価し、高額になった場合は、相続税が課税される可能性があります。節税を図ったり、納税資金の準備をしたりといった対策を、親の生前中にしておく必要があります。

よくある勘違いとして、代表取締役である親が死亡すると、息子が相続で代表取締役になると思っている人がいますが、役職やポジションは相続されません。相続できるのは、親が所有していた株式です。

株式会社では、保有している株の割合に応じて、会社に対する議決権を持ちます。中小企業の場合は、オーナーである代表取締役が自社株を100%保有していることが多いため、オーナー一人しか議決権を持つ人がいません。ですから、何でも自分の思い通りに決めることができます。つまり、後継者の子が親の所有していた自社株を100%相続することで、議決権は後継者一人が持つことになり、自身を代表取締役として選ぶことができるのです。

ただし、相続には法定相続人が関わってきます。法定相続人には故人の遺産をもらう権利があるので、もし後継者以外の法定相続人が「自分にも自社株をくれ」と言い出したら、株が分散してしまうことになります。株が分散すると、後継者の思い通りに会社のことを決めにくくなるので、経営者の権力が弱まり、地位が不安定になる可能性があります。

こうした事態を避けるためには、親が遺言書をつくって「自社株については100%を後継者の子に相続させる」旨を記載しておきます。遺言書の詳細については、後で説明しますが、「公正証書遺言」というのをつくっておくのがいいでしょう。公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されるため、確実に実行されやすいからです。

しかし、遺言書をつくってあっても、法定相続人には「遺留分」といって、最低限保障された取り分があり、これを侵害することは誰もできません。法定相続人から遺留分を主張されない、遺族皆が納得するような遺言書をつくる必要があるでしょう。

②生前贈与による株式移転

現経営者が生前に自分の意志で、贈与によって自社株を後継者に承継する方法です。

生前贈与による承継では、現経営者の思う相手に、贈与したい分だけ、株式を移転させることができます。つまり、後継者に100%の株式を引き継がせることが可能になります。株式を後継者一人に集中させることで、地位が安定しやすくなります。

贈与するタイミングも現経営者の望むときでよいので、1年ごとに20%ずつ5年かけて贈与するといったこともできます。自社株式の評価を低めたタイミングで、まとまった数の株式を贈与すると節税になります。

また、暦年贈与の非課税枠を使えば、毎年110万円までは無税で贈与ができます。時間さえ許せば、税金を一切支払うことなく自社株のすべてを移転することも不可能ではありません。ある経営者は、後継者を育成しながら、長期的スパンで少しずつ自社株を移転していき、後継者としての自覚を促していくというやり方をしていました。

生前贈与による承継で気をつけなければいけないことの1つは、一度贈与をしてしまうと撤回できないことです。たとえば、長男を後継者にするつもりで自社株の贈与をしてきたけれども、やはり二男のほうが経営者に向いているので後継者にしたいとなったとき、長男に贈与した株式を課税なしに二男に譲渡することはできません。ですから、自社株の生前贈与は後継者を確定してから行う必要があります。

もう1つ、暦年贈与で非課税枠を超えて贈与をした場合、一般的には相続税よりも贈与税が高額になります。この後に、相続税と贈与税のしくみについて説明しますので、そちらをよく読んでください。また、贈与のタイミングによっては他の相続人から遺留分の減殺請求をされるリスクもあります。そのため、株をもらわない他の兄弟も言い含めておく必要があるでしょう。

③売買による株式移転

現経営者が所有する自社株や事業用資産を、後継者が買い取ることで承継する方法です。

現経営者と後継者の間で合意があれば、100%の自社株を後継者が買い取ることが可能なので、地位は安定させやすくなります。

ただし、株式を買い取るためのキャッシュを用意しなければならない点が課題です。自社株評価が高額になれば、それだけ多くのキャッシュが必要になります。

別の見方をすれば、それだけ多くのキャッシュを集めてこられる後継者なら、この本に書かれている対策の多くは必要ないと言えそうです。おそらく本書の読者層からは外れてしまうため、これ以上は詳しく述べません。

念のために、株式移転のメリット・デメリットをまとめておきますので、参考にしてください。

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