相続と絡むから家族がもめるオーナー企業の事業承継

相続と絡むから家族がもめるオーナー企業の事業承継

さて、中小企業の事業承継では、会社の承継そのものに加えて、経営者個人の相続の問題も絡んできます。特に親子で事業承継する場合には、個人の相続が問題をより複雑化させます。

事業承継では「人・金・物・知的財産」の承継が不可欠ですが、中小企業の場合、このうち「金」と「物」の部分に問題が起こりがちです。

非上場企業の場合、株価は上場企業のように市場取引で決まるのではなく、特定の算出法を用いて計算します。すると、資本金1000万円で設立した会社の株価が、3億円になっているなど、自社株の評価額が予想以上に跳ね上がるケースが少なくありません。特に業績が安定している会社や、不動産の合み益がある会社などは、自社株評価が高くなる傾向にあります。

これを後継者に譲ろうとすると、経営者の生前に贈与する場合は贈与税が、死後に相続する場合は相続税がかかります。3億円に対する贈与税は最高税率である55%が適用されます。また、3億円に対する相続税率は45%です。いずれにしても多額の納税を迫られてしまいます。いくら業績が安定していても、数億円もの現金を誰もが用意できるわけではありません。

事前に対策をしておくことで、いくらでも節税はできるのですが、これをやっておかなかった場合は、納税に苦しむことになるでしょう。最悪の場合、納税のために会社を閉じざるをえなくなったり、相続貧乏になったりする例は、現実にあちこちにあります。

あるいは、会社の資産と個人の資産が一緒になり、不透明になっているケースも危険です。たとえば、会社名義の車を私的に常用していたり、会社の運転資金の不足時に個人の資産から貸し出していたり、個人の備品を会社用に持ち出していたり……というような場合です。

相続税申告の際には、会社の資産と個人の資産を明確に区別し、計算しなくてはなりません。資産の公私混同は、これを非常に煩雑にします。

手間が煩雑になるだけなら税理士に任せてしまえばよいのですが、本当に怖いのは、資産の公私混同が親族を巻き込んだ「争続」の種になってしまう点です。

よく起こりがちなのは、経営者が会社からお金を借りて、友人の会社に貸してしまったという場合です。会社から経営者が借金をしたという事実は帳簿に残るのですが、振り込みなどではなく直接現金で貸してしまった場合、「友人の会社に貸した」という資金の動きは誰にも分からなくなってしまうのです。友人の会社に貸したお金は個人の資産という扱いになりますから、当然、相続財産と見なされますが、契約書が見つからなければ遺族には把握できません。税務署からは「財産を隠しているのではないか」という疑いをかけられ、残された家族や会社に調査が入ることもあります。

また相続手続きの段になって、個人に多額の貸付金があることが発覚すると、債権額に応じて相続税額も変わってしまいます。急に相続税が増えれば、予定していた現金では足りずに相続人が苦労するでしょう。場合によっては、遺産分割協議からし直す必要も出てきます。

相続が起きてしまってからでは、もはや節税などの打つ手はほとんどありませんから、どこからか納税分のキャッシュを用意することになります。手元に残るはずの遺産は大きく削られてしまいます。遺族にしてみれば「そんな話聞いてないよ!」と叫びたくもなるでしょう。

逆に、個人が業績不振の会社の借入の連帯保証人になっていた場合も厄介です。

相続というのは、プラスの財産もマイナスの財産も相続するのが原則です。預貯金や不動産などプラスの財産より、借金などのマイナスの財産が多くて、遺族が相続をしたくないという場合は、「借金の存在を知り得たときから3か月以内」であれば相続放棄が可能です。しかし、相続放棄をするということは、プラスの財産も手放すことになりますから、今、住んでいる自宅も手放すことになってしまうのです。これは恐ろしいことです。

限定承認といって、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続するという方法もありますが、いずれにしても当初予定していた相続財産より減ってしまうため、相続・承継のプランは崩れてしまいます。

そのほかにも、会社を継ぐ子(仮に長男とします)と継がない子(仮に二男とします)でもらえる遺産の額に差が生じてしまい、それがもとで兄弟仲が悪くなる、といったケースは最もありがちです。

中小企業では自社株の評価が高くなる傾向にあるため、会社を継がない二男からしてみれば、「長男は数億もする会社をもらったのに、自分は数千万円の土地だけなのは納得いかない」と思えてしまうのも、ある意味ではしかたのないことかもしれません。

その一方で、会社を継いだ長男のほうにも不満が生まれる可能性もあります。

そもそも自社株というのは、基本的に換金するものではありません。たとえ3億円分株式をもらったとしても、長男はそれを3億円のキャッシュにすることはできないのです。長男にしてみれば、「自分の思い通りにならない財産をもらって経営の苦労を背負い込むくらいなら、数千万円の土地のほうがずっとよかった」という気持ちになっても不思議はありません。

こうした兄弟間の遺産分けの格差をなくすため、自社株を兄弟に均等に相続させる親もいますが、これはこれで波乱含みです。なぜなら、長男二男で2分の1ずつ株式を保有するということは、2人に経営権が分散されるということだからです。

株式会社における株式は、そのまま経営実権を意味します。つまり、株式の保有率が高い者が、経営の執行権を握るということです。長男と二男が同じ強さの決定権を持ってしまうと、後継者である長男の思いだけでは何も決められなくなってしまいます。

仲が本当によく、二人三脚で進んでいける兄弟なら何とかなるかもしれません。しかし、現実には足並みをそろえて進んでいける兄弟というのは、親が思っているほど多くはないのです。

ちなみに、前出、野村総研のアンケートでは、経営者に対して後継者の自社株式保有についての考え方を調べています。

過半数以上の保有が望ましいと考える経営者が最も多くなっています。「一部保有していればよい」や「必ずしも保有する必要はない」という答えも多くあります。しかも、自社株を誰に保有させていいか「分からない」という回答も多く、この結果は、′′自社株によって招かれる遺族間トラブル′′への認識が非常に低いことを物語っているのです。

また、本書のテーマとしては、親子で承継していく方向性を最大限打ち出していくのですが、究極的に経営が悪化してしまった会社については、本当に後継者を巻き込んでよいのかどうかを考えなくてはいけません。

2005年の三菱UFJリサーチ&コンサルテイングのデータによると、債務超過の状態になっている企業の経営者の14.5%が、事業承継を検討しているという結果が出ています。つまり、経営状況が悪くても承継を考えている経営者も一定の割合でいるのです。

もちろん自分の立ち上げた会社ですから、少しでも長く続けたい、畳んでしまう勇気がないという経営者の考えも理解できます。ただ、本当に承継するかどうかには見極めが必要です。自分の思いだけで闇雲に承継してしまうと、後継者や一族を結果として不幸に陥れてしまいます。

辞めどきや経営の立て直し方を誤って、惰性や愛着だけで会社を続けていると、一家の財産はどんどん失われてしまいます。親が会社の現状を冷静に見極められなかった結果、苦労するのは、経営者本人ではなく、後に遺される家族なのです。

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